交通事故のよくある質問
第1章 交通事故はどういう手続きで解決する?(手続き全体)
Q.1.
交通事故の加害者というのはどのような法的な責任を負うのでしょうか。
A.1.
刑事上、行政上、民事上の3つの責任を負います。
交通事故の加害者は、主に3つの責任を負うといわれています。
1つは刑事上の責任といわれるものです。業務上過失致死傷罪、危険運転致死傷罪などの罪状で呼ばれるもので、罰金刑や禁固刑などの刑罰が科されることになります。刑罰を科すか否かの判断(起訴するか否かも含めて)は、検察官の判断によります。
2つ目は行政上の責任と呼ばれるもので、反則行為に対する免許の点数制度や免許停止、免許取り消しなどの処分がそれにあたります。
3つ目が民事上の責任と呼ばれるもので、いわゆる金銭賠償の問題です。通常、被害者と加害者との示談交渉などの結果、受け取ることになる賠償金や慰謝料といった金銭は、この民事責任の分野になります。
刑事上、行政上の責任については、被害者であるあなたが、特に何かを準備したり、行動を起こさなくても加害者に課せられますが、民事上の責任に関しては、被害者であるあなた自身が行動しなくては、“泣き寝入りする”ことにもなりかねません。そうした被害者の泣き寝入りをなくすために、このFAQをお役立てください。
Q.2.
交通事故は通常、どのような流れで解決していくのでしょうか。
A.2.
被害者と加害者の話し合いによる解決が基本です。
Q.1で説明した民事上の責任、すなわち金銭による損害賠償は、そのほとんどが加害者と被害者の話し合いによって決められます。この話し合いが円満に執りおこなわれ、被害者が満足のいく賠償金を得ることができれば、とくにトラブルになることはありません。ほとんどの事故は話し合いで解決しているようです。ところが、加害者が必ずしも“いい人”だけとは限らないのが世の中です。故意に被害者と連絡をとらなかったり、話し合いの席に着こうとしなかったり、さらには、一方的に低い金額を突き付けて、それ以上は出せないと開き直ったり・・・。いろいろな人がいるのです。結局、金額的に納得できる話し合いができなければ、被害者は話し合いに見切りをつけ、調停(→Q.9参照)や裁判(→Q.10参照)という手続きを取ることになります。調停は簡易裁判所に、裁判は地方裁判所もしくは簡易裁判所に申し立てすることになりますが。この手続 きは弁護士に依頼する方が多いようです。
Q.3.
交通事故の示談ということで保険会社の担当者が連絡してきました。示談とは何ですか?
A.3.
被害者と加害者の間で交わされる損害賠償の内容に関する約束事です。
Q.2で、交通事故の大半は、被害者と加害者の話し合いで解決すると説明しました。そして、この話し合いで取り決められた損害賠償の中身に関する約束のことを示談といいます。示談は必ずしも書面に残す必要はなく、口頭での、いわゆる口約束でも成立しますが、後日その約束が実行されなかったり、そもそも取り決めた内容にお互いの考え方、認識の違いなどがあった場合にはトラブルの元になります。そのため、トラブルになったときの証拠を残す意味でも、ほとんどのケースで示談は書面にして残しておきます。現実に賠償としてすでに履行されたものや、将来にわたり履行される予定のものも含めて、すべて書面に記載することになります。
示談は、現実的には保険会社の担当者とする場合がほとんどです。ですから、質問のように、加害者本人からではなく、保険会社の担当者から連絡が来る場合が多いのです。ここで注意が必要なのは、保険会社というのは、この手の事件解決のいわばプロです。このプロ相手の話し合いでは、何もしなければ、相手のペースで話し合いが終わってしまう危険性が大です。まず心得ておくことは、あわてて示談をまとめてしまわずに、じっくりと話し合いをすることです。
示談は、一度ハンコを押してしまうとやり直しはききません。示談書にはすぐにハンコを押さずに、必ず一度持ち帰って、相談所の意見を聞くなど、客観的に見直してから、ハンコを押すように心掛けましょう。相談所については、Q.6とQ.7に詳しく解説してあります。
Q.4.
示談において保険会社の言いなりにはならないほうが良いのでしょうか。
A.4.
相手はプロ。疑問があればまずは各種相談所や弁護士などの専門家に相談を!
前問でも触れましたが、保険会社の示談担当者は、いわゆる交通事故の示談のプロです。被害者の方々は、このプロの交渉人を相手に示談交渉をしていかなければならないことになるわけです。もちろん保険会社の担当者にも、被害者の立場に立って物事を考えてくれる良心的な方も多数います。しかし、逆に、示談を早く安く済ませようと交渉を進めてくる担当者も確実にいるようです。
後者のような担当者にあたった場合、被害者の方に損害賠償の知識がまったくなければ、その賠償額が自賠責保険の範囲内で終わってしまうということもあるでしょう。自賠責保険の範囲内であれば、任意保険の保険会社の実質的な負担はゼロになるからです。
ご自分で判断できないときには法律相談所を利用するなどして、専門家の意見を聞くことをお勧めします。相談所については、Q.6とQ.7に詳しく解説してあります。
Q.5.
加害者にまったく誠意がなく、示談が進みません。せめて強制保険だけでももらえないものでしょうか。
A.5.
強制保険では、被害者が直接、保険会社に請求して賠償金を受け取ることができます。
本来、保険というのは、保険料を拠出することで、何か事故等で損害が生じたときに、その損害をカバーする保険金をもらえる仕組みです。ですから、交通事故の場合でも、加害者が損害賠償を支払い、それをカバーする意味で保険会社に保険金を請求するのが本来の手続きです。これを自賠責保険の場合でいうと加害者請求といいます。つまり加害者請求では、まず被害者に損害賠償金を支払ったうえで、その領収証、その他必要書類を添えて保険金の請求をします(実際に支払った金額についてだけ請求できます)。つまり加害者が賠償金を支払ったことが前提になるわけです(示談未成立でも請求は可能です)。
ところが、示談がなかなか進展せず、加害者に賠償能力がない場合などは、被害者は治療費ももらえず、泣き寝入りを余儀なくされます。そこでそうした被害者救済のために、自動車の保有者は自動車損害賠償責任保険(通称、自賠責保険)に加入することが強制されています。強制的なものなので、強制保険とも呼ばれています(→Q.8参照)。
この強制保険では、交通事故の被害者が、加害者との示談前に、加害自動車が加入している保険会社に保険金の支払いを請求し受け取ることができます。これを強制保険の被害者請求といいます。さらに、もし被害者に資力がなく、治療費の支払いや生活費にも困っているような場合には、この被害者請求の前渡し金として、仮渡し金の請求をすることができます。なお、強制保険は人身事故のみを対象としており、物損事故については保険金が出ないということも頭に入れておきましょう。
Q.6.
保険会社の説明は専門用語が多くて分かりません。どこか相談できるところはありませんか?
A.6.
日弁連交通事故相談センターが無料で相談に乗ってくれます。
(財)日弁連交通事故相談センター所在地一覧(平成17年6月現在)
この相談所は、自動車、二輪車事故の民事関係の問題について、弁護士が無料で相談に乗ってくれる便利な相談所で、日本弁護士連合会が基本的人権の擁護と社会正義の実現を図るため昭和42年に運輸大臣の許可を得て設立した財団法人です。運営は弁護士が当たり、自動車事故に関する損害賠償問題の適正かつ迅速な処理を促進し公共の福祉の増進に寄与することを目的としています。
相談できる内容としては、自賠責保険または自賠責共済に加入する事を義務づけられている車両による国内での「自動車・二輪車」事故の民事関係の問題についてです。被害者側・加害者側・相談者の居住地は問いません。ただし刑事処分・行政処分(→Q.1参照)の相談はできないことになっています。
現在、全国141か所で相談を受付け、うち29か所では示談(→Q.3参照)あっ旋および審査を、弁護士が無料でおこなっています。損害賠償の交渉で相手方と話し合いがつかないような時には、日弁連交通事故相談センターの弁護士が間に入り、公平・中立な立場で示談が成立するように援助をしてくれることになります。その意味では、交通事故紛争処理センター(→Q.7参照)と同様の機能があります。しかし、交通事故紛争処理センターと同じように、出頭を含めて当事者に対する強制力はありませんので、相手方保険会社が従わないときには、訴訟(→Q.10参照)を提起せざるを得ません。
Q.7.
保険会社の説明に納得がいきません。どこに相談したらいいのでしょう。
A.7.
(財)交通事故紛争処理センターが力になってくれます。
(財)交通事故紛争処理センターの所在地一覧(平成17年6月現在)
交通事故の被害者の現状としては、自賠責保険や任意自動車保険などによる各種の保険制度により、一定程度の補償を受けることができます。しかし、被害者の大多数の方々が交通事故の賠償や保険制度についての知識がなかったり、交渉に不慣れだったりするために、その道のプロである保険会社との交渉では、被害者側に不利になるような事例も数多く見受けられるのも事実です。
このような事態に鑑み、昭和49年に、従来の相談機関の機能を一歩進めた「交通事故裁定委員会」という組織が発足されました。その後昭和53年には組織は拡充され、中立公正の立場を強化するため、日本弁護士連合会の協力を得て、「財団法人交通事故紛争処理センター」へと発展し、交通事故の紛争の適正な処理と公共の福祉を目的に、全国的にその組織を広げることになりました。
この機関の特徴は、交通事故の損害賠償に関する紛争の解決を目的とした機関であり、中立かつ独立の機関であるということです。主な業務として、「和解の斡旋」や「審査」などがあります。しかし、交通事故紛争処理センター自体は民間の機関であるので、当事者が合意しなければ示談(和解)を成立させることはできませんし、そもそも裁判のように当事者を強制的に呼び出すことはできません。しかし、加害者側に任意自動車保険が付保されているような場合には、かなりの強制力をもった紛争処理機関となります。
本来であれば、紛争を解決する機関としては、裁判所がその役割を担うのでしょうが、訴訟はその手続きの煩雑さ、審理期間の長期化、高額な弁護士費用などの関係でなかなか利用されません。その点、このセンターだと手続き等も簡単なので、利用される機会も多いようです。
Q.8.
強制保険と任意保険の違いはなんですか?
A.8.
強制保険は人身損害に限られ、任意保険は対人賠償、対物賠償、自損事故、搭乗者傷害などがセットになっています。
自賠責保険とは、自動車損害賠償保障法に基づき自動車の運行による人身事故の被害者を救済するために、すべての自動車(一部適用除外車もあります)について契約することが義務づけられている、いわゆる強制保険です。通常は車検のときに付保されますので、ユーザーにとっては少しなじみが薄い保険かもしれません。法律で付保を義務付けられていますので、原則、付保されていない車両での交通事故の発生はありえません。しかし、加害車両が車検切れの車であった場合などは、この例外としての事例にあたり、自賠責保険が付保されていないということもあります。自賠責保険は、広く交通事故の被害者を保護するという要請から法制化されたものであるため、その性質上、保障制度的な要素が強く、またたくさんの請求を迅速かつ公平に大量に処理する必要性から、かなり定型化・定額化された支払の基準が定められています。傷害事故、後遺障害事故、死亡事故などの場合に、支払いの限度額も定められています。
支払いの対象となる損害も、人身損害に限られ、物損は対象になりません。被害者は、加害者の加入している損害保険会社等に直接に請求することもできます(→Q.5参照)。当座の出費にあてるため、被害者に対する仮渡金という制度もあります。
これに対して任意保険とは、その名前が記す通り、ユーザーがその意思で、任意に各保険会社と保険契約を締結するものです。法的な規制により強制化されているということはありません。通常は1年契約ですが、最近では2年、3年という契約も保険会社によっては取り扱っているようです。自賠責保険との大きな違いは、その対象とする損害の範囲が、広範囲にわたることです。その補償範囲を任意に選択できるのも特徴ですが、一般には対人賠償、対物賠償、自損事故保険、搭乗者傷害保険、無保険車傷害保険もしくは人身傷害補償保険等がセットになって1つの自動車保険として販売されていることが多いようです。対人事故は自賠責が付保されていれば最低限そちらからの支払いはされますが、対物事故の場合には、任意保険で対物賠償保険の契約がなければ、保険で支払われることはありません。
事故に遭われた場合には、相手方の任意保険の有無にも注意が必要です。
Q.9.
調停とはどのようなものですか。
A.9.
裁判所で行われる当事者同士の話し合いですが、調停が成立すれば、確定判決と同様の効力があります。
調停は簡易裁判所において行われますが、訴訟(裁判)(→Q.10参照)とは異なり、裁判官のほかに一般市民から選ばれた調停委員2人以上が加わって組織した調停委員会が当事者双方の言い分を聴き、必要があれば事実も調べ、法律的な評価をもとに条理に基づいて歩み寄りを促し、当事者の合意によって実情に即して争いを解決します。
調停は、訴訟ほどには手続きが厳格ではないため、だれでも簡単に利用できる上、当事者は法律的な制約にとらわれず自由に言い分を述べることができるという利点があるので、国民一般の支持を受け、交通事故に限らず幅広く利用されています。申立ての際に貼付する印紙代も訴訟に比べて安価であるのも特徴です。
調停は、裁判所の中で行われますが、実態としては「話し合い」が基礎にあり、あくまでも当事者双方の合意を尊重します。よって話し合いが成立しなければ解決はできず、調停は不成立となります。また出廷してこない相手方当事者を拘束する手段もないのが現実であり、不誠実な相手方との話し合いには向きません。しかし、ひとたび調停が成立すれば、その合意を記載した書面(「調停調書」といいます)は確定判決と同様の効力があり、強制執行をおこなうこともできます。
Q.10.
訴訟はどのように起こしてゆくのでしょうか。
A.10.
話し合いも調停もだめなときの最後の手段。本人でも起こせるが、複雑な事案では、弁護士を頼んだほうがいいでしょう。
訴訟とは、これまでに述べた「示談」(→Q.5参照)、「交通事故相談センター」(→Q.6参照)、「交通事故紛争処理センター」(→Q.7参照)、「調停」(→Q.9参照)などの手続きとは違い、まさに公的な強制力をもった裁判所の判断を求める作業になります。
まず手続きの開始としては、「訴えの提起」をしなければなりません。一般に、裁判所に訴訟を提起する作業がこれにあたります。訴状を作成して、管轄のある裁判所に提出することになります。また訴額(請求する金額のこと)に応じた収入印紙や定められた金額の郵便切手を貼付しなければなりません。裁判を起こした後、裁判所では、争点及び証拠の整理をする手続き、口頭弁論などが実施されます。判決に不服がある場合には、控訴、上告などの手続きもあります。
また裁判自体は、弁護士を頼まずに本人だけでも起こすことはできます。俗に「本人訴訟」などと呼ばれているものです。その場合には、難解な訴訟の手続きの流れや裁判処理自体を詳しく知るために、裁判所内の事務所で手続きその他の方法の教えを乞うほうが良いでしょう。
しかし、「責任の関係」や損害賠償算定の「相当因果関係」など、自分では手に負えないような事情があれば、速やかに弁護士に相談をしたほうが良いでしょう。
Q.11.
弁護士に依頼するとどのような利点があるのでしょうか?
A.11.
交通事故の専門家である保険会社を相手に争うには、法律の専門家である弁護士に依頼する効果は高いでしょう。
交通事故の解決の方法には、示談交渉、民間の紛争処理機関での示談斡旋(交通事故相談センターや交通事故紛争処理センターなど)、調停、裁判という方法があります。いずれも、本人みずから行なうことができます。
しかし、交通事故の解決には、ケースによっては複雑な法律関係が潜んでいたり、また損害の計算を行なうのにも専門的な知識が必要であったりするのも事実です。そうしたすべての状況を踏まえた上で、法的に正当な主張を行なうためには、やはり弁護士という専門家の手を借りるのが方法としては間違いがないと考えられます。また、損害の算定を行なうにあたり、慰謝料(→Q.21、75-80参照)などの計算方法は、弁護士が使用している基準のほうが、保険会社が使用している基準より高いのも事実です(注、弁護士が介入したから必ず弁護士の基準で計算されるというものでもありません)。保険会社は交通事故の専門家ですので、それに対抗するために法律の専門家を依頼するということは十分にその効果はあります。
しかし、事案の内容によっては、弁護士に依頼するとその弁護士費用の関係からかえって経済的に不利益になるケースも考えられます。その費用をかけるだけの十分な可能性があるのかどうかをよく検討し、弁護士と相談する必要もあります。
第 2 章 交通事故、一体どっちが悪いのか?(過失相殺)
Q.12.
加害者と被害者はどのように決まるのでしょうか。
A.12.
加害者、被害者という言葉は、形式的な分類でしかありません。あまり被害者、加害者の呼び方に敏感になる必要はないでしょう。
事故発生の原因の要素を多く持っている方を加害者、少ない方を被害者というように分類することもあります。
しかし、自動車と歩行者の事故で、歩行者が信号無視であるケースの場合を考えてみますと、単に過失の大小だけでは割り切れません。一般にこのような事故の場合には、自動車の過失30%:歩行者の過失70%と考えられます(あくまでもケース事例です)。この場合に歩行者が大けがもしくは死亡していて、相手方である自動車に治療費や慰謝料を請求する際には、やはり歩行者の方を「被害者」と便宜的に区分して呼びます。
Q.13.
交差点で出会い頭の車同士の事故に遭いました。相手は一方的に私のせいにして怒鳴ってきました。どうしたらいいのでしょう。
A.13.
相手方の言い分は一切認めず、警察に事故の届けをし、保険会社同士の話し合いで決着しましょう。
事故の発生形態によりますが、信号のない交差点においての出会い頭事故であれば、たとえこちら側に一時停止無視などの落ち度があっても、双方に責任割合の発生する事故と考えられます。相手方が一方的にこちらの責任にしてきても、認める必要はありません。警察にきちんと事故の届出を行い、お互いの連絡先や保険会社などを確認し、それぞれの保険会社に事故の報告を行い、保険会社同士での話し合いを行なってもらいましょう。
相手方がそのように興奮した状況であれば、現場での話し合いは難しいでしょうが、相手方のいい分は認めない、という自分の意思だけはきちんと伝えておきましょう。
Q.14.
被害者にも過失があるため損害額の減額がおこなわれ、損害額満額の保険金は支払えないといわれました。そもそも過失相殺って何ですか?
A.14.
A.13でも若干ふれましたが、交通事故の発生はどちらか一方の不注意のみで発生することは少なく、当事者双方の不注意から発生することがほとんどです(例外的に、信号待ちで停止している車両への後方からの追突事故や、青信号横断中の歩行者への信号無視の車両の衝突事故などの、一方的な事故もあります)。
そして、その発生した損害を相手方に負担させることになるのですが、「公平の原則」の観点から、その損害(被害)を請求する側にも事故発生の原因となる不注意がある場合には、その責任部分は被害者本人に負担させるのです。損害の賠償は、基本的には金銭でおこなわれますので、その割合を具体的な数値で明示しようとする試みが、「過失割合」というものです。そして、具体的な損害額から責任割合を控除して支払う方法が、過失相殺ということになります。
Q.15.
過失にはどのような例があるのでしょうか。
A.15.
道路交通法に規定されている決まりや義務違反のほか、非常識な行動も過失とされます。
車を運転する場合、人はいろいろな「きまり」に従って運転します。単純な例でいえば、赤信号の時は止まらなければなりませんし、右折禁止の道路では右折することはできません。また、車を運転する場合には、前方に注意したり、ハンドルやブレーキを確実に操作して、他人に迷惑をかけないように注意する「義務」(安全運転の義務)などもあります。こういった「きまり」や「義務」のほとんどが、道路交通法に規定されています。この「きまり」や「義務」を守らなかった場合は、その運転には「過失」があったといえます。
その他運転における常識も考慮されます。道路交通法における「きまり」や「義務」の他に「常識」のない運転をした場合も「過失」があったと判断されます。正面からセンターラインをオーバーして自動車が向かってきた場合、常識では、衝突をさけるためにハンドルを切ったりブレーキをかけたりして回避行動をとります。しかし「すぐにもとの車線にもどるだろう」と勝手に考えて、適切な回避行動をとらなかった場合も「過失」があったと判断されるという具合です。自動車事故の過失割合は、運転における「きまり」「義務」「常識」を破っていないかどうかでお互いの「過失」の大きさが判断されるのです。
Q.16.
双方動いているときの事故は、必ず両者に過失が出るといわれましたが、どのようなケースでどのような割合なのでしょう。
A.16.
過失割合の認定基準表というものが発行されており、それに詳説されています。
現在の過失割合の判断実務においては、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」が広く用いられているようです。多くの保険会社の実務もこちらに従っています。これは、様々な事故形態をパターン化し、それぞれのパターンに道路交通法の優先権や、運転慣行から基本的な過失割合の考え方を図示したものです。これは事故発生時の様々な状況・事情に対応し過失割合を修正できるよう、「修正要素」が設定されています。また、東京三弁護士会交通事故処理委員会・(財)日弁連交通事故相談センター東京支部・共編の、「損害賠償額算定基準」や、(財)日弁連交通事故相談センターが発行する、「交通事故損害額算定基準」等の中にも過失割合を類型化した資料が掲載されています。
それらによれば、車同士の事故の場合は、一般的には双方に同程度の注意義務が課せられていると考えられ、したがって、双方ともに動いているときに発生した事故では、双方に過失があるものと推測されます。
例外的に、信号機のある交差点で交差する車同士の事故で、一方が青信号に従っており、他方が赤信号無視で交差点に進入してきた場合には、信号遵守車には基本的には過失はないと考えられています。
同じく、対向車との衝突事故で、加害車両がセンターラインをオーバーしてきた場合にも、被害車両が回避行動を取っていれば、基本的に被害車両には過失はないと考えてもよいでしょう。
ただ、いずれの場合にも、被害者側においてわずかな注意を払っていれば交通事故の発生を回避できたと認められるときは、被害車両にも過失があったという判断がされます。
これらの参考資料は、実務上有力な資料として使用されてはいますが、事故形態は千差万別であり、場合によっては個別の事情によって割合が変わることが往々にしてありますので、あくまでも一つの目安として考えてください。
Q.17.
友人と酒を飲み車で送ってもらっている時に友人の車が単独事故を起こしてしまい被害に遭いました。私にも「過失」はあるのでしょうか。
A.17.
最近の判例では、原則的にはあなたの「過失」(好意同乗減額)を問わない傾向にありますが、ご質問の場合には問題があります。
最近の判例では、原則的にはあなたの「過失」(好意同乗減額)を問わない傾向にありますが、ご質問の場合には問題があります。
これは好意同乗(無償同乗)の減額と呼ばれるものです。無償で乗せてもらった被害者が、乗せてくれた加害者に対して損害賠償を請求する場合に損害額が減額されるか否かという問題です。過失割合の考え方に類似してはいますが、事故発生車両の同乗者であることから、過失割合とは別に考えられています。
かつては、その自動車の運行の経緯、同乗の経緯、事故発生時の態様などから、ある一定の割合で損害額から減額がされていましたが、最近の裁判例では原則的には減額はされない傾向にあるようです。
しかし、同乗した被害者にも事故発生につき責任があると認められる場合には、やはり減額されます(この点裁判例はおおむね減額しない傾向によっているとは考えられますが、裁判によって判断はそれぞれです)。では、どういう場合に被害者にも責任があると認められるのでしょうか。たとえば、無謀運転を制止できるのにしなかった場合や運転者が飲酒していることを知っていながら同乗した場合、もしくはスピード違反をあえて指示したような場合などがそれにあたるでしょう。
質問のケースは、あなたは運転者が飲酒していることを知っていながら同乗したわけですから、あなたにも責任があったと思われますので、損害額は減額されると考えたほうが無難でしょう。
Q.18.
3歳の子どもが道路に飛び出し事故に遭いました。過失相殺は適用されるのでしょうか。
A.18.
子どもの親に対して過失を認め、過失相殺されます。
そもそも、事故の発生を避けるのに必要な注意力、いい換えれば安全に道路を通行できるような判断力がない人は、過失相殺の対象とはなりません。そして、ご質問の3歳の子どもには一般的にそのような能力はいまだ備わっていないと考えられます。つまり、3歳の子どもは、過失相殺の対象にはならないのです。
しかし、そうはいっても交通量の多い幹線道路を青信号で進行してきていた自動車が、赤信号で飛び出した歩行者(3歳児)を轢いた事故で、被害者が3歳であるという理由で過失相殺を適用せずに、加害者にすべての責任を負わせるというのは、いかにも不公平です。
裁判実務においては、そのような場合、その子どもの親に、幼児を監督するにつき過失があったとして、結果的に過失相殺をおこなっています。また、裁判例によっては、公平の原則を持ち出し、幼児の事故についても正面から過失相殺の適用を認めたものもあります。
いずれにせよ、被害者が3歳の子どもであっても、過失相殺はおこなわれます。
Q.19.
違法駐車の自動車に衝突して死亡しました。その駐車車両に責任は問えるのでしょうか。
A.19.
責任を問える可能性も十分ありますが、一般的には衝突した側に全面的な責任があります。
自賠法上の「運行」に関する考え方では、定められた格納場所から出発して定められた格納場所へ戻るまでの間は、特段の事情のない限り、自動車の運行にあたると一般に理解されています。この考え方からすれば、夜間、街灯などの灯りのあまりない場所の違法駐車車両となれば、運行中であるという理解になりやすいでしょう。
事故の発生した時間帯における交通状況、被害者の走行速度や違反の有無、道路形態(カーブか直線かなど)その他さまざまな要素を複合的に考え合わせていかなければわかりませんが、違法駐車の車両であり、また明らかに危険な状態で駐車されているのであればその責任を免れることは難しいものと思われます。よって違法駐車の車両の所有者に自賠法上の責任を追及することは十分に可能かと考えられます。
しかし、その損害賠償額の算定においては、公平の原則の見地から、過失相殺の考え方の適用が問題とされるでしょう。相手方の責任の所在と、損害の算定における過失相殺の考え方は矛盾しませんので、この場合にはかなりの確率で大きく過失相殺されることになるとは思われます。
第 3 章 損害賠償ってどんなもの?(損害賠償)
Q.20.
貸出金利には上限があるそうですが、今の借金の借り入れ金利がこの上限を上回っている場合には、引き下げることはできますか。
A.20.
人身事故、物損事故それぞれについて、以下のような補償があります。
■ 人身事故の場合
| 治療費 | 治療に際して必要になる実費を指します。入院費や手術料、診察料などのすべてを指します(→Q.29参照)。 |
| 入院雑費 | 入院を余儀なくされた場合に請求することができる費用です。本来の趣旨は、入院中の新聞購読費や卵、牛乳などの栄養補助食品、ガーゼ等の衛生用品などの購入に必要な実費ということです。賠償実務としては、日額いくら、というような損害算定がなされます(→Q.39参照)。 |
| 付添看護 | 看護費用は入院看護と通院看護に大きく分けられます。しかし、ともに認められにくいものです(→Q.34-36参照)。 |
| 通院交通費 | 文字どおり通院に要した実費です。普通は公共の交通機関を利用した場合の交通費であり、マイカーを利用した場合はガソリン代となります(→Q.37参照)。 |
| 休業損害 | 原則的には、事故の負傷のため就労ができず、収入を得ることができなかった場合を想定しています(→Q.23参照)。会社員の場合(→Q.49-56参照)。自営業者の場合(→Q.58-62参照)。専業主婦の場合(→Q.63-65参照)。会社役員の場合(→Q.57参照)。 |
| 慰謝料 | 事故による負傷の痛みなど、肉体的、精神的苦痛を慰謝するものが慰謝料にあたります。後遺障害の残存した場合、死亡の場合などは、傷害慰謝料とは別に計算をされます(→Q.21参照)。 |
| 死亡・後遺障害慰謝料 | これも傷害の慰謝料に同じく、人の死亡や後遺障害を慰謝するためのものです。 |
| 逸失利益 | 死亡事故の場合や後遺障害が残存してしまった場合に、本来得ることができたであろう収入を計算して請求するものです(→Q.22参照)。 |
| 将来の介護料 | 後遺障害1級、2級、3級のケースで、四肢の不自由や精神神経に著しい支障を残してしまい、日常生活を独力でおこなうことができない場合に算定、請求をします。 |
| 葬儀費用 | 死亡事故の場合に対象になります。しかし全額認定されるようなケースはほとんどありません(→Q.47参照)。 |
| その他 | たとえば装具の費用(→Q.31参照)、旅行のキャンセル費用や、通勤のための交通費などです。 |
■ 物損事故の場合
| 修理費 | これはその通り、自動車の修理費用です。修理の可否を判断する、全損、分損という判断もこの段階でおこないます(→Q.44-45参照)。 |
| レッカー代 | これは、事故の現場で走行不能に陥った場合、最寄りの修理工場へ搬送するための実費です。 |
| 代車代(レンタカー代) | 事故の修理に際して使用不能の損害を請求します。実際にレンタカーを要した場合にはその実費になります。必要性、妥当性などが厳格に求められます。 |
| 格落ち損害 | 俗に査定落ち、などとも呼ばれます。現実の損害として立証するには難しいものがありますが、いわゆる事故のために買い替えを将来する際にその評価額が落ちるので、その分を賠償請求するというものです(→Q.46参照)。 |
Q.21.
慰謝料って何ですか
A.21.
交通事故により負ったけがに対して、その肉体的、精神的苦痛を慰謝するべきもので、それをあえて金銭に換算したものです(→Q.75-80参照)。
慰謝料の考え方には、けがに対する慰謝料、後遺障害に対する慰謝料、死亡に対する慰謝料というように考え方が分けられます。
日本における損害賠償の考え方では、よほど特別な事情がない限り、慰謝料請求ができるのは人身事故の場合に限られます。
Q.22.
逸失利益って何ですか 。
A.22.
その事故がなければ得られたであろう収入のことです(→Q.66-71参照)。
逸失利益には、後遺障害によるものと死亡によるものがあります。後遺障害が残ると、事故前と同じように働けなくなる場合があります。その結果、収入が減ることが考えられます。つまり、後遺障害がなければ得られたであろう収入が失われたことになります。また、事故によって死亡すれば、死亡しなければ得られたであろう収入が失われたということになります。交通事故で亡くならなければ得られたであろう利益を逸してしまったのですから、その損害を逸失利益といいます。
後遺障害の場合、死亡の場合、それぞれその損害の計算方法には定められた計算方式があります。また後遺障害の等級についても自賠責保険において定めがあり、それぞれの等級の要件や労働能力喪失率などが定められています(規定は労働者災害補償保険の規定に準拠しています→後遺障害別等級表)。
Q.23.
休業損害って何ですか
A.23.
原則的には、事故の負傷のため就労ができず、収入を得ることができなかった場合を想定している補償です(→Q.49-65参照)。
ゆえに会社員で休業はしたが給料は全額もらったような場合は請求できるものはありません(有給消化は別です)(→Q.49-56参照)。
自営業者の場合、事故前年度の確定申告書をもとに、「利益(売り上げではありません)」を365日で除して日額を算出します。現実の休業日数が原則ですが、その証明が難しいのも事実です(→Q.58-62参照)。
専業主婦でも、家事は重労働でもあるため、現実的に金銭の支給を得ているわけではありませんが、損害賠償の算出においては理論上の数値を採用しようという発想から、広く認められる傾向にあります(→Q.63-65参照)。
しかし会社役員だけは、一般の労働者とは違い、経営をおこなうことにより報酬を得るものであり、労働の対価として賃金を得るということではないため、損害の認定はされにくい傾向にあります(→Q.57参照)。しかし現実には小規模な法人であれば、会社経営だけを行っている役員は少なく、現実に自分も営業に走り回っている人もいるでしょう。ケースバイケースですが、同じような仕事をしている他の従業員がもらっている賃金を目安に休業損害を算出して請求するという方法になるでしょう。賃金センサスなども参考にします。
Q.24.
損害賠償請求権に時効はあるのですか。
A.24.
通常は3年間で、時効により権利は消滅します。
この点は民法に不法行為による損害賠償の請求権は被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないときは時効によって消滅する(民法724条)と規定されています。これはひき逃げなどで加害者が知れないときなどの特殊な場合を除いては、通常は事故発生日より3年間経過した時に時効になると理解されます。
ただし、事故による負傷の治療が長期間を要するような場合で、3年間経っても治癒もしくは症状が固定していないような場合には、この消滅時効にはあたらないものと考えられます。とはいっても、事故後、加害者側とまったく連絡をとっていないような、いわゆる請求する意思をまったく示していなかったような場合には、加害者側から時効による請求権の消滅の主張をされてしまう恐れがあります。時効に関しては注意が必要です。
ちなみに、自賠責保険の時効は2年です。自賠責保険には、加害者請求(15条請求)という方法と、被害者請求(16条請求)という方法がありますが、加害者請求の場合には加害者が賠償金を支払ってから2年、被害者請求の場合には事故発生から2年ということになります。
Q.25.
適正な賠償を受けるにはどうしたらいいですか?
A.25.
損害を証明できる立証資料を取り揃えて、示談、交通事故紛争処理センター、調停、裁判などの方法に訴えるということになりす。
第 1 節 積極的損害
Q.26.
交通事故の治療には健康保険が使えないと聞きましたが。
A.26.
大きな誤解です。交通事故の診療でもすべて健康保険が使えます。
交通事故の診療には健康保険が使えないという誤解があるのは事実です。たしかに病院の側からすれば、同じ治療行為で高い治療費を請求できるうえ、事務手続きも簡単なことから、交通事故の診療では、健康保険を使わない、いわゆる自由診療を行うところも少なくありません。
しかし、被害者とすれば、それでは治療費が保険診療の2〜3倍にも膨れ上がり、すぐに強制保険の傷害事故に支払われる保険金の限度額120万円を超えてしまうことになります。そうなれば、強制保険からは、支払いを受けられなくなってしまいます。また、被害者側にも過失がある場合には、治療費が高額になれば、その分自分の負担すべき金額も増えていきますので切実な問題になります。
交通事故による入院や診療が長引きそうであれば、まず保険診療に切り替えてもらうように病院と折衝することでしょう。また、病院側でも自由診療とはいえ、無秩序に請求を作成するわけではなく、近年では自賠責保険の診療報酬基準が作成され(一般に新基準と呼ばれています)、交通事故の場合にはその基準を使用する病院も増えているようです。そのあたりの治療費について、病院ときちんと話し合っておくことは重要です。
Q.27.
事故の治療に健康保険を使用するメリットは何ですか。
A.27.
被害者に過失がある場合は、健康保険を使えば金銭的に得!
| Case 被害者にも過失(20%)があるような場合。 治療費が自由診療で100万円(健康保険方式で1点単価20円として)休業損害が50万円、慰謝料が50万円だと仮定しましょう(数字はすべて架空です)。 |
この人の人身損害の総額は200万円になります。そして、この被害者にも過失があった場合を想定してみます。すると全体200万円から、20%相当分が控除されますので、差引きでは160万円を相手方から受け取ることになります。しかし病院の治療費は100万円ですから、手元に残ることになるのは60万円です。
これを、まったく同じ状態で健康保険を使用したとしましょう。治療期間が変わりませんので、休業損害と慰謝料は同じく50万円ずつになります。治療費は、まず健康保険を使用したことにより1点あたりの単価が10円になりますので、半分の50万円になります。そして、健康保険を使用した場合には患者本人負担分は、3割ですので、負担額は15万円になります。そうすると人身損害の総額は、115万円になります。被害者の過失分20%を控除すると、相手方から受け取る金額は88万円になります。治療費として病院に支払うのは10万円ですので、手元に残る金額は78万円になります。
| 人身損害の総額 | 治療費 | 休業損害 | 慰謝料 | 控除額 | 残額 | |
| 自由診療 | 200万円 | 100万円 | 50万円 | 50万円 | 40万円 | 60万円 |
| 保険診療 | 115万円 | 15万円 | 50万円 | 50万円 | 23万円 | 77万円 |
この例で考えてもわかるように、被害者の手元に残る金額は、健康保険の使用、未使用で17万円も違ってくることがわかります。これが、被害者にも過失がある場合でのメリットになります。
もし仮に、過失の全くない事故の場合であっても、治療費の請求が適正かどうかの判断が審査機関でなされますし、大きな事故で重大な負傷を負った場合に治療費がいたずらに高額化することはやはり避けたほうが良いでしょう。健康保険を使用したためにできない治療というのはほとんどないでしょうし、もし仮にどうしても健康保険では投与できないが交通事故の治療に抜群の効果があるというものがあれば、それは相手の保険会社に伝えてその分だけ自由診療でおこなうことも考えればよいでしょう。
Q.28.
通勤途中に事故に遭いました。労災保険は適用されますか?
A.28.
適用されますが、受けた給付金分は賠償請求から控除されます。
交通事故にあったのが、業務中であったり通勤途上であれば労災保険が適用されることになるでしょう。しかし、交通事故の被害者が、労災保険から給付金を受け取った場合には、その分の損害賠償請求を加害者には請求できなくなります。この考え方は、健康保険でも同様です。といっても、これで労災で支払われた分、加害者が得をするわけではなく、結局は、その分を国が加害者に損害賠償請求することになるのです。
なお、交通事故と健康保険、交通事故と労災保険の組み合わせは、それぞれ使用可能ですが、健康保険と労災保険は重複はしません。これはその社会保険の性質から、日常生活をカバーするのが健康保険、業務中をカバーするのが労災保険という住み分けになっているからです。
Q.29.
傷害事故の治療費は、どこまで認められるのでしょうか?
A.29.
交通事故における治療費は、原則として医師の治療に基づく費用ということになります。医師が必要があると判断して、医師の管理の元に行う針灸などの施術であれば保険会社もまず認めるでしょう。逆に、医師の指示がないものについては、保険会社に確認をしておいたほうがいいでしょう。
接骨院や整骨院は、おおむね期間を区切って認定する傾向にあります。接骨院、整骨院の先生は医師ではありませんが柔道整復師という国家資格をもち、社会的には準医療機関という位置付けで考えられ、社会保険などの適用もあります。しかし交通事故の治療という特性もありますので、1か月から3か月をもって治癒すればそれほど問題はありませんが、それ以上の期間を要する場合には必ず保険会社に確認をおこなうことと、必要があれば医師の診断を受けておく必要があると思われます。
あんまやマッサージにかかる場合にも、必ず医師の指示書(診断書などの書面)を取り付けておき、保険会社にもそのことを伝えておいたほうが後のトラブル回避に役立つと思われます。
なお、裁判の場合には、あんま、マッサージなどの必要性については個別具体的に判断されますので、一概に保険会社が認めてくれなかったから請求はまったくできないとは限りません。
温泉療養もトラブルになりがちな治療です。温泉療養と一口にいっても、医療機関としての温泉病院の場合と、単なる観光地の温泉とにわかれます。医師が治療の一環として温泉病院への転院を薦めて入院加療をおこなったような場合にはまず問題はないでしょうが、それ以外の、いわゆる観光地の温泉における温泉療養の場合にはかなりの確率でトラブルになります。まず、一般的には医師の指示がある場合で、治療上有効かつ必要がある場合に限り認められるとは解されますが、保険会社との交渉段階では、ほとんどのケースは認めないでしょうし、仮に裁判まで進んだとしても、全額認められるケースは比較的少なく、また認められても額がある程度制限されることが多いようです。
Q.30.
入院時の個室費用は請求できるのでしょうか。
A.30.
特別の事情がなければ、入院は大部屋が基本。
損害賠償の算定の基本的考え方からすると、治療費においても適正かつ妥当な実費ということになりますので、入院費用(室料)については大部屋が基本になるでしょう。治療上における医師の指示があったり、症状が非常に重篤であったり、また大部屋に空室がなかった等の特別の事情があれば認められます。
もちろん、そのことは医師の診断書に記載してもらう必要があります。ただ単に他人と一緒の部屋には居たくない、というような理由では保険会社も認めませんし、裁判で争うことになっても認めてもらうのは難しいでしょう。医師の指示ではないが、どうしても個室に入らなければならない事情があるのでしたら、その時点で保険会社とよく話し合いをして、支払いの可否についてよく検討してどちらが支払うのかを決めておいたほうが良いでしょう。
Q.31.
医療用の器具、装具、器械の費用は請求できるのでしょうか。
A.31.
事故による受傷、もしくは後遺障害の為に日常生活に支障が生じたときは、不自由な身体の機能を補うための器具が必要になります。これらの器具の購入に要した費用は、受傷の部位、程度、後遺障害の状態、生活環境等を考慮して、身体の不自由を補完するために必要かつ相当な限度で請求する事ができます。
例えば、足を骨折したときの松葉杖、下半身付随になったときの車椅子のように、社会通念上当然必要となる器具がそれにあたります。これらの範囲を超えてくるものについては、担当の医師によく相談をし、どうしても必要であるという場合であればその旨の証明書を記載してもらい、それをもって保険会社とよく相談をしてからの購入をお勧めします。
Q.32.
義手、義足、車椅子の費用はどうなるのでしょうか。
A.32.
医師の診断書は必要ですが、当然、請求は認められます。
事故による負傷、後遺障害のために必要があり、適正かつ妥当な金額の範囲であれば認められます。義手、義足などは、失ってしまった身体の機能をまさに補完するものですので請求することに問題はないでしょう。これらは人工的に作られた器具ですから、耐久性の面で永久にもつという性質のものではありません。請求の際には、耐久年数に応じて、交換の必要があるものは将来の買い替え費用も原則として認められます。医師に何年ごとに作り直すことが必要で、業者の費用は一回いくらくらいであるとの証明書を書いてもらうことになります。また、この将来にわたる作り替え費用は、中間利息を差し引いた上で、一括で請求することも可能です。